
スポーツだけではなく、プラスアルファの形でスポーツと関わるキラキラした人物。
スポタスでは、『スポタス人』のインタビューを通じてスポーツとの様々な関わり方を発信しています。
井野 大輔(いの だいすけ)
チュックボール歴は約15年。
2014年アジア選手権に日本代表初選出。
2017年東アジア選手権には選手兼マネージャーとして参加。
2019年、日本初開催の国際大会となった東アジア選手権では、男子日本代表監督に選ばれた。
現在は第一線を退き、日本チュックボール協会理事、東京都立川市を拠点に活動しているクラブチーム代表として、メディア出演など競技の普及活動に務めている。
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▲チュックボールのイメージはこちらの動画をご覧下さい。
赤木:まず、チュックボールの歴史からお伺いしてもいいですか?
井野:発祥国はスイスです。1970年にスイスの生物学者が考案したもので、ハンドボールとペロタ(スカッシュを素手や木ベラで打つスポーツ)を組み合わせて作ったスポーツと言われています。
赤木;比較的最近の競技なんですね。ルールもお聞きしていいですか?
井野:見た感じで言うとハンドボールに近いですが、ルールはバスケとバレーを足したようなイメージです。トランポリンみたいなネットがあって、そこにむかてボールを投げる。跳ね返ったボールを相手チームが取れなかったら得点になります。
特徴としては、妨害が一切禁止な点ですね。
赤木:球技ではかなり珍しいですね。何か理由があるんですか?
井野:過去の論文にあるのですが、当時のレジャースポーツは平和的じゃないとされていて、フィジカルが強い人が勝つようにルールが決まっていました。これは学校の体育でもそうで、学校だと運動神経が良い人が目立ってそうじゃない人はパスもらえなくなります。
その為、競技の中で体のぶつかり合いが無く、人を妨害する事を排除する競技が求められました。
赤木:そういった理由があって妨害禁止のルールになったんですね。
井野:身体接触を避けるためにいかなる妨害も避けるようにできています。
赤木:そういった場合、ディフェンスをどうやってするかが悩むところだと思いますが、途中のやりとりに戦略性とかってありますか?
井野:ゴールの跳ね返りについて戦略性が高いと思います。通常、ディフェンス側はボールが跳ね返る方向に動きます。ですので、オフェンス側は相手のいる再度と逆にパスを振ってゆさぶったりします。チュックボールのゴールではネットが自陣と敵陣それぞれにありますが、これはどちらを狙っても得点になります。
赤木:そうすると、パスを反対ゴールに向けて打つ事もできるんですか?
井野:できますね。そういった攻め方を前提にしたフォーメーションや守りのフォーメーションもあります。
赤木:自陣のゴールも相手ゴールも狙えるってことは、コート真ん中から反対側にいきなりロングシュートなんかもできてしまえるって事ですよね?それだとディフェンスは防ぎようがないように思えますが。
井野:その場合、シュートを打って失敗すると相手の得点になるので、簡単にはロングシュートは打てないです。
赤木:失敗というと?
井野:コート外に行ってしまうと失敗とみなされます。また、ネット前に立ち入り禁止エリアがあるんですが、跳ね返ったボールがその立ち入り禁止エリア外に落ちてしまっても失敗とみなされます。
赤木:なるほど、リスクが大きくなるとなかなかロングシュートは打てなくなるんですね。チュックボールの競技人口は何人くらいですか?
井野:国内では1000人くらいですね。世界で言うと50万人くらいいます。チュックボールは日本には1980年に入って、群馬の前橋で1981年に協会ができました。主にレクリエーションスポーツの一環として親しまれています。
赤木:例えば世界大会を目指しているような選手だと何人くらいになりますか?
井野:世界大会目指している人は30~40人くらいですね。
赤木:井野さんのチュックボール歴についても教えて頂いていいですか?
井野:チュックボールは15年やっています。
赤木:凄く長いですね!日本の競技者の中でもかなり長い方なんじゃないですか?
井野:いえ、私よりもっと長い人もいて、日本代表の最年長では25年くらい競技をしている人もいます。
赤木:チュックボールを始めたきっかけは何だったんですか?
井野:中学の同級生の紹介です。アルバイトにいったところに中学の同級生がいて、その人に紹介されたのがきっかけです。
赤木:同級生が競技者だったんですね。
井野:バスケみたいにマンツーマンとかできない強度も強くないからできそうと思って始めたんですが、その同級生が打ったシュートが取れなかったのが悔しくて、それで一気にはまってしまいましたね。
赤木:井野さんご自身のスポーツ歴もお聞きしていいですか?
井野:小学校で野球をやって、中学ではバスケをやっていました。
赤木:チュックボールの競技としての魅力をお聞きしてもいいですか?
井野:チュックボールの魅力は、スポーツの能力が凄い人じゃなくても日本代表になれる事ですね。
赤木:お聞きする感じだと確かにそうですね。フィジカルが勝ち負けに影響しにくい印象です。
▲JAPANのユニフォームはやはり特別です
井野:例えば何かのスポーツで『日本代表』の看板を持ちたいと思う人にはお勧めですね。そういったガチの目的じゃなくても、運動不足を解消したい人に対してもお勧めです。運動強度もそれほど高くありませんので、カジュアルに楽しむ事ができます。ボールを投げることと取ることができればOKなので、大会ではおじいちゃんおばあちゃんが参加するようなクラスもあります。
赤木:そういった意味では年齢の差があまり無いのも魅力なのかもしれないですね。
井野:そうですね。ぶつかり合いもないので、年齢性別まざってプレーできるのは他の競技と異なる点だと思います。子どもにもお勧めで、私も児童館に依頼されて小学生にやってもらったりします。男女差もなくできる競技ですので男女混合でできるのも良いですね。
赤木:相手の邪魔をしてはならないというルールがあるのが良いですね。
井野:シュートも力じゃなく狙い方を工夫すれば得点が取れますし、運動神経よくない人でもシュート決めてチームが盛り上がります。
赤木:その中でもチュックボールに向いてる人ってどういう人ですか?
井野:競技の特徴として、守備が有利という点があります。相手がシュート失敗すると得点になるので、守りがそのまま攻めにもなるんです。そういった点から考えると、例えば空いているスペースみつけたりできる空間認識能力がある人ですね。あとは相手の動きを予測できるであればポジショニングも上手いので有利です。
井野:チュックボールの利点で言うと、子どもの運動能力向上にも役立つという事が言えます。
赤木;それは他のスポーツと比較してという事ですか?
井野:はい。チュックボールをプレーすると他のスポーツでも活きると思います。例えば先ほどの空間認識力が養われる事で俯瞰でコートを見れるようになります。俯瞰でコートを見る事は集団競技の中でとても大きなアドバンテージになります。他にも車の運転など、日常生活でも役立つ能力が養われますね。小学校から依頼されて子どもにチュックボールを教える時も、相手の動きを予測するように教えています。
赤木:相手の動きを予測するのは個人競技では必須の能力ですよね。
井野:競技の性質として相手の邪魔ができないので、ディフェンスは必然的に相手の動きを予測する必要があります。そういった点を通じて予測力を養う事ができます。それに身体接触が無いので、子どもでも怪我の心配なく競技できるのも良いですね。
赤木:身体接触がない中で怪我する事はそうそう無いですよね。
井野:あるとしたら、ボール取る時の突き指と着地する時くらいですね。人と人がぶつかる事がほぼ無いので、捻挫などもあまり見た事はないです。
赤木:例えば企業内部活動でチュックボール部を始める場合のメリットなどありますか?
井野:新人から上司、男女の能力差がなくフラットにできる競技なので、部や課をそのままチュックボールチームにする事ができる事が利点です。そのまま大会にだって出られますし。
他にはボールを思い切り投げられるのがストレス発散になるという点も良いですね。嫌いな人の顔を思い出してネットに投げたり 笑
赤木:そういう理由で競技をしている人もいるんですね 笑
井野:守備の時などはお互い助け合ってプレーするので、助け合いの精神が養われますので、チームの醸成にも良いですね。
赤木:チュックボールで強い国はどこになるんですか?
井野:国で言うと台湾が一番強いですね。国際チュックボール協会も台湾にありますし。男女共にダントツで強い国です。何と言っても小学校の授業でチュックボールをプレーしたりしていますからね。
赤木:小学生の頃からチュックボールに慣れ親しんでいたら強いですね。
井野:ヨーロッパだと地域総合型スポーツクラブでプレーされたりする事が多く、年齢層も幅広いです。アジアの国だと学生が多いですね。台湾だと学生の部活動としても盛んです。アジア・ヨーロッパは世界的に見ても強豪地域ですね。
赤木:日本のランキングってどのくらいに位置していますか?
井野:世界50か国の中で44位くらいですね。ただこれは必ずしも実力を反映している訳ではなく、国際大会に出てないとポイントがつかないという点も大きいです。
赤木:実力的にはどれくらいだと思いますか?
井野:実力的には大体ベスト16くらいだと思います。アジアは激戦区で台湾のブロックに入ってしまうとそこで負けてしまうのでなかなか戦績を出すのが難しいですが。実際、世界大会ベスト8の半分がアジアの国なので、激戦地域ではあります。
赤木:台湾がダントツと仰っていましたが、例えばコーフボールでも台湾は凄く競合だと聞きました。台湾ってそういったベンチャースポーツに特化した施策があるんでしょうか?
井野:それで言うと、台湾の学校制度や進路指導に特徴があります。台湾では小学校や中学校で得意なスポーツを見極めて、強豪校に進学するのが一般的です。学校によってある部活動がバラバラなので、ベンチャースポーツが強い高校がある環境です。
赤木:日本だと生徒数の多い学校以外はほとんど一部のメジャースポーツだけですからね。
井野:あとは国民性もありますね。何でもいいから中国に負けないようにしたいという機運があるように思えます。例えばベンチャースポーツでも台湾代表の遠征は政府から補償が出たりしますし。他には体育館が多い事も有利な点です。台湾はバスケが人気で体育館が多くあるんですが、バスケのコートがあれば他のベンチャースポーツもかなりカバーできるので、普通の公園や空き地と同じ感覚で体育館があるのはとても良い環境です。
赤木:競技者としても競技普及者としても活躍されていると思いますが、仕事と両立していく上で意識しているポイントなどありますか?
井野:私の場合は選手としては一線から退いているので厳密に競技者と言えるかは微妙ですが、会社員として、面接段階でチュックボールやってる事を言って了承頂いているのは大きいです。
赤木:入社時点で会社の了解を頂いているのは凄いですね。
井野:職場の協力を得られているのは大きいですね。チュックボールの世界大会で協賛金だして頂いたりもしていますし。その代わりちゃんと仕事はこなすようにしています。言われた事以上をやって『信用の貯金』をつくるようにしていますね。
赤木:『信用の貯金』というのは分かりやすいですね。例えば大会の予定と仕事が重なったりした事はないですか?
井野:それは無いようにしています。事前に諸々調整して、前もって穴を埋めるようにしていますので。今までそれでトラブルになった事はないですね。
赤木:今までに何人もベンチャースポーツ競技者の方にお話お聞きしましたが、皆さん会社でも活躍されているんですよね。やはりそういった『自立心』みたいなものがベンチャースポーツを通じて養われるのかもしれないですね。
赤木:今後の目標や目指していきたい事など教えて頂いても良いですか?
井野:今、立川でチュックボールのチームを運営しているんですが、ここを日本のチュックボールを牽引する存在にしたいですね。それは競技者としての牽引というより、競技普及の意味合いです。他にはチームにスポンサーを得る為の活動もしていきたいです。チュックボールの活動をビジネス化して収益できるようなモデルを作っていきたいです。
赤木:ベンチャースポーツで収益化は凄いですね。
井野:可能性はあると思っています。お陰様で国民的アイドルユニットの冠番組に呼んで頂いた事もありますし、それがキッカケでファンの女性から私のTwitterアカウント宛てに参加希望のDMがきたりしていますので。
赤木:追い風が吹いてる感じですね。
井野:これはチュックボールに限らず他のベンチャースポーツにも言える事ですが、とにかく食わず嫌いせずに一度やってみて欲しいと思いますね。体験会に来てくれた方のリピート率って凄く高くて、満足度もとても高いです。ぜひ一度チュックボールに触れて頂きたいと思います。
いかがでしたでしょうか。
チュックボールの普及、仕事との両立。沢山のノウハウの詰まったインタビューだったのではないでしょうか。
スポタスでは『スポーツ+何か』を持った人をこれからもご紹介していきます。