2020/02/09 10:00 436PV

副業の代わりに企業内部活動?企業内部活動の意義や価値についてコミュニティデザイナーはこう語る

黒田 悠介

働き方改革が叫ばれ、大手企業の中でも副業解禁の流れが起きています。また、生産性向上の為、労働時間を削減する動きも多くあります。

反面、フリーランスの人口が減少していると言う統計結果もあり(後述参照)、働く人々のニーズをハッキリと捉える事が難しくなっています。

このような動きの背景にあるものは何なのか、そして、企業の活動において部活動がどういった意味を持つのか。

コミュニティデザイナーの黒田さんにお聞きしました。

黒田 悠介(くろだ ゆうすけ)

「議論で新結合を生み出す」という活動ビジョンを掲げて、新しい職業とコミュニティを生み出す活動を行う。

「職業×議論」としてはディスカッションパートナーを生業に。スタートアップから大企業の新規事業まで、主に1on1の議論を通じて立ち上げを支援。

「コミュニティ×議論」としては議論というフラットでポジティブな対話でつながるコミュニティである『議論メシ』を主催。お互いの意見や価値観を尊重しながら、新しいアイデアやモノの見方を一緒に作り上げる実験場として、議論をとおしてメンバー同士が自然とつながり、様々なコラボレーションを生み出す。

他に、フリーランスコミュニティ「FreelanceNow」の発起人でもあり、かつては「文系フリーランスって食べていけるの?」というメディアを運営するなど、「フリーランス研究家」として働き方の多様性を高めるための活動も行う。

東京大学文学部心理学→ベンチャー社員×2→起業(売却)→キャリアカウンセラー→フリーランス研究家→ディスカッションパートナー→コミュニティデザイナーという紆余曲折なジャングルジム型のキャリア。

黒田 悠介

企業はチームでありコミュニティである

黒田:まずお伝えしたいのは、チームとコミュニティの違いです?

赤木:一見すると同じように思えますね。

黒田:例えば『サッカーチーム』と言うとイメージしやすいですが、『サッカーコミュニティ』と言うとちょっとピンとこなくないですか?

赤木:確かに、サッカーチームとサッカーコミュニティでは目的も違うように思えますね。

黒田:仰る通りで、チームというのは外に目的のある人達の集まりで、コミュニティは中に目的のある人の集まりになります。サッカーチームであれば相手チームに勝つ事、大会で優勝する事といった目的になります。サッカーコミュニティであればその地域での活動や、コミュニティで集まる事自体を楽しみにしている人の集まりというイメージですね。

赤木:なるほど、サッカーコミュニティというとあんまり強そうってイメージはないかもです 笑

黒田:では企業はどうでしょう?

赤木:そういう意味でいうとチームですよね。競合他社に勝ったり、売り上げ目標を達成したりと他者を前提とした目的で集まっていますから。

黒田:そうですね。やはりチームとしての色合いが強く出てきます。その場合、チームの構成員である社員はチームの目的を果たす為の役割を担う形になります。ですが、企業の中でもコミュニティ的な要素はあります。と言うより、チームとしての企業、コミュニティとしての企業と両面がある。

赤木:コミュニティとしての面というと、どういったところでしょう?

黒田:例えばスポタスさんでは『BUKATSUP(ブカツアップ)』という企業内部活動の支援サービスをされていますが、まさに企業内部活動は企業におけるコミュニティの面だと思います。一部の実業団は別として、企業内部活動の結果で本人の評価が変わるなんてありえないですよね?あくまで社員同士が交流する事を目的にしているので、そういう意味ではコミュニティにあたります。

赤木:なるほど。企業内部活動を企業におけるコミュニティと考えるのは面白いですね。

黒田:そして次に大事な事として、チームとコミュニティでは所属員の持つ価値が変わります。

赤木:どういう事ですか?

黒田:チームの目的が外にあり、勝つ事や売り上げといった定量的なものである以上、組織構成員の価値はそこに繋がるものになります。これを『Doの価値』と呼んでいます。

赤木:例えば営業力だったりその人だけのスキルだったりですね。

黒田:そうです。ですが、コミュニティの目的はあくまで内側にあるので、そこで求められるのは定性的な価値になります。これは『Beの価値』と考えると良いでしょう。

赤木:成果や能力ではなく、個人としての存在が価値になるという事ですね。最近だと『心理的安全性が重要』といった話もありますが、そういった考えとも近そうですね。

黒田:企業活動ではどうしてもDoの価値にフォーカスが当たりますが、これからの企業においてはBeの価値を認める風土が必要になります。その場として企業内部活動を使うというのはとても合っていると思いますね。

釣りバカ日誌のハマちゃんスーさん

赤木:Doの価値とBeの価値で思い出したんですが、例えば漫画の『釣りバカ日誌』。主人公のハマちゃんは仕事ができないペケ社員だけど、釣りのフィールドでは社長であるスーさんの師匠になるんですよね。あれなんかまさにDoの価値とBeの価値じゃないですか?

黒田:その例えは分かりやすいですね。Doの面で評価されない人がBeの面で評価される事はありますし、お互いの立ち位置が逆転するというような現象も起こり得ます。そして、組織においてもそういった関係性の再構築は重要になります。組織は役割が固定化されてしまうと硬直してしまうので、ある場面において関係性が再構築される事で組織自体がストレッチされて柔軟になります。

赤木:企業全体としてもプラスになりそうですね。

黒田:企業におけるコミュニティの機能として、そういった関係性を再構築する事で離職率を低下させたりロイヤリティを高める効果は有るでしょうね。社員としても、仕事の評価と別軸で会社と繋がる事ができますから。

赤木:逆に仕事で活躍してる人にとっては困るかもしれないですが 笑

黒田:意外とそうでもないですよ。これは社会学的な話にもなりますが、仕事ができるできないに関わらず、会社では『ロール』(役割)としての自分として他の人と接していませんか?

赤木:例えば『〇〇チームのリーダーとしての自分』みたいなイメージですか?

黒田:そうです。社内の人と関わる時、私達は無意識に自分の存在を役割として定義しているんです。でも私達はロールだけじゃなく、パーソナリティを持って生活しています。ロールとしての自分が高く評価されていても、パーソナリティとしての自分を受け入れてもらいたいという願望は誰しももっているはずですよ。

副業のオルタナティブ(代案)としての企業内部活動

黒田:副業解禁の流れが出ていますが、実は一方でフリーランスの人口って統計上は減ってるんですよ。

赤木:そうなんですか!?

黒田:ランサーズ株式会社の『フリーランス実態調査』の2018年版と2019年版を比較すると、2018年時点でのフリーランスの人口は1119万人いたんですが、2019年には1087万人になっているんです。

(参照:https://www.lancers.co.jp/news/pr/14679/ https://speakerdeck.com/lancers_pr/huriransushi-tai-diao-cha-2019nian-du-ban

赤木:意外です。社会的にフリーランスのニーズが減っているという事ですか?

黒田:そうではないと思います。この統計はあくまでも有償で働くフリーランスのものですので、実態としては、有償フリーランス以外の活動に広がっているのではないかと思います。例えばボランティアや地域活動なんかもそうですね。

赤木:なるほど、有償フリーランス以外の選択肢が見えて来た結果なんですね。

黒田:そして、そういった方のニーズは必ずしもお金を稼ぎたいというものではなく、社会における自分の居場所を作りたいというものもあり得ます。これは具体的な情報ソースがある訳ではないですが、コミュニティに関わることを生業にしているとそういうニーズがある事は体感しますね。

赤木:そういった居場所を求めるニーズがあるのであれば、企業としては副業先を紹介する代わりに部活動を紹介するという提案もできそうですね。

黒田:本質的に求めているものが居場所であるなら可能だと思います。企業にとっても副業解禁は労務管理上のリスクがありますし、離職率が高まるリスクもあります。企業内部活動であれば、活動そのものを企業活動に紐づける事ができますし、社員の帰属意識を高めたり離職率を防止したりという効果が見込めます。部活動もスポーツに限らず、例えばエンジニアの技術勉強会を部活動と考えるなら自己啓発やスキルアップといった効果も見込めます。

赤木:「副業の代案として企業内部活動を推進する」と言うとピンとこないかもしれませんが、こうやって解説されると納得できますね。

黒田:最近では企業が社員の副業先を紹介してくれるような事例もありますが、社員に部活動という『時間の使い方』を提案するのもアリだと思います。副業だと労務管理上の課題がありますが、部活動であればそういった部分もクリアできるはずですし。

赤木:企業としては副業を推進して副業先に転職されてしまうリスクも下げられますし、そういった面でも経営上のメリットはありそうですね。

コミュニティとしての企業内部活動を立ち上げ、維持するポイント

赤木:『BUKATSUP』をリリースしてから色んな引き合いを頂くんですが、「どうやって企業内部活動を作って盛り上げたらいいか分からない」と言った声を多く聞きます。そういう企業内部活動のコツみたいなのってありますか?

黒田:コミュニティ運営という面で言うと、『枠から始めるか核から始めるか』が大きなポイントですね。枠から始めるというのは、『〇〇部を作ったから誰か入って~』会社が呼びかける事で、核から始めるというのは『〇〇部を作りたい』という気持ちを持っている人を数人見つけておいて、その人達をコアの部員としてアサインする事です。うまくいくコミュニティは必ず後者です。

雪だるまをイメージすると分かりやすいですが、核になる小さい雪玉を思い切り固めて転がすと後は自然に大きくなっていきますよね?

赤木:なるほど。

黒田:最初は4人くらいで良いと思います。その人達が楽しそうにしている姿を見せると、自然と周りに人が集まります。特に若手の少人数組織が良いですね。上役の方が中心になってしまうと、どうしても会社のモードが強くなってしまい、周りもお付き合いで付いてくるようになってしまいます。

赤木:先に仰っていた組織ストレッチの上でも大事ですね。

黒田:後はその活動を上の人が褒めたり社内広報してくれると良いですね。褒めると言っても別に人事評価的な意味ではなく、アンオフィシャルな承認です。そうしていくと文化として根付きやすいです。これは部活動に限らないんですが、新しい取り組みをしようとする上で経営層がコミットしていく事が鍵になります。いかに経営層が部活動をコミットするかによって成否が変わります。

赤木:よくある質問として「部活動申請のフォーマットや経費精算の方法を教えて欲しい」などもありますが、経営層のコミットの方が重要度は高そうですね。

黒田:そういったバックオフィス側のHow toも確かに大事ですが、コミュニティの観点で言うとやはり社内部活動をどう位置付けるかの方が重要ですね。

赤木:そういった熱量ある人達で部活動が立ち上がったあと、維持し続ける為に必要なものってありますか?

黒田:部活動の場合、次の活動まで時間が空いてしまいます。その間を埋める橋渡しの仕組みが必要ですね。例えば飲み会だったり反省会だったり、写真を撮ってオンラインで公開するのも良いです。

赤木:例えば定期的に大会に出場するような、ガチガチじゃない程度の目標を設定するのも良さそうですね。

一億総居場所無し時代

赤木:こういった個人が居場所を外部に求める動きって最近よく聞くように思えるんですが、その背景にあるものって何だと思いますか?

黒田:総論として、『コミュニティの弱体化』にあると思います。

赤木:コミュニティの弱体化ですか?

黒田:例えば昔であればお寺があって檀家さんがいて、そこは個人が永続的に所属できるコミュニティとして機能していました。他にも村という共同体があったり、都会でも家族経営の会社や終身雇用の企業など、Beの価値を承認してくれる場所がありました。

赤木:確かに、私も子どもの頃はそういったコミュニティを色んなところで見かけました。

黒田:現代においては、そういったコミュニティが弱体化していると言えます。お寺の集まりに行く人は減っていますし、家族経営の会社や終身雇用の企業も減少傾向にあります。そうすると、Beの価値を認めてくれる場が無くなってしまう。

赤木:皆がゆるやかに居場所を失ってきたんですね。

黒田:要因は様々だと思いますが、ある種『一億総居場所無し時代』みたいな状態ですね。

赤木:分かりやすい 笑 そこで皆が無意識に居場所を求めているんですね。

黒田:例えばオンラインサロンやゲーム・アニメのファンコミュニティなどもそういった居場所探しのニーズに応えているものだと思います。

赤木:確かに、そういう意味では『価値観』がコミュニティの核になっているのかもしれないですね。

黒田:そうですね。地縁や血縁でもなく、同じ価値観で繋がっているコミュニティです。そこでは価値観そのものがBeの価値になり、お互いのパーソナリティを承認しあう機能を果たしているんだと思います。これは企業の部活動でも言える事で、その競技が好きという価値で集まっていたり、活動自体に価値を置いている人達によるコミュニティとも言えますね。

今こそ企業内部活動を

赤木:色々お話をお聞きしていると、企業内部活動をする意義が見えてきたように思えます。

黒田:そうですね。企業内部活動を企業や社会におけるコミュニティとして再定義すると、その必要性が見えてくると思います。

赤木:個人がBeの価値を認めてくれる場を求めているとするなら、企業内部活動が持つ価値は大きいですね。

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文:赤木 勇太
この記事の記者紹介
スポタス編集部

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早川:いえ、私が入学した当時はスポーツ心理学専攻ではなく、理学部の情報物理学科でした。 赤木:むしろ心理とは離れた印象ですね。 早川:きっかけは、当時のスポーツ心理学の実践している先生で第一人者の人がいて、その方の主催するメンタルトレーニング勉強会にいったことです。目から鱗が落ちるような内容で、そこからもっとスポーツ心理学について勉強したいと考えるようになりました。 赤木:大学にいるとたまにびっくりするような面白い授業に出会える時ってありますよね。 早川:その先生がメンタルトレーニングのスタッフ募集していて、学部は違うけどやりたいと思って先生の研究室に入り浸り、勉強会に参加して4年間を過ごしました。 赤木:熱量が凄いですね。 早川:学部生が終わって修士になった時、その先生の研究室に入る為に体育学科に入ります。そしてそこで2年間本格的にスポーツ心理学の勉強を始めました。 アメリカ留学 赤木:今はアメリカの大学にいらっしゃいますが、元々アメリカの大学に行こうと考えていたんですか? 早川:英語には元々興味がありました。中学の時にも英会話教室に3年間通っていましたし、漠然と、英語をもっと使いたいとは思っていました。留学の大きな理由としては、大学院1年生の時に進路を考えてて、当時通ってた大学に博士課程がなかったので外に出る必要がありました。それで先生や研究室の先輩に進路相談した時、留学を勧められたのがきっかけです。 赤木:それでアメリカ留学だったんですね。かなり勇気が必要だったんじゃないですか? 早川:学生でスポーツ心理学を学びに留学してた人はいなかったので、腹くくっていきましたね。それでまずはフロリダに行って、その後今いるテネシーに行きました。 スポーツ心理学がマーケットとして成熟していない状況ですので、自分が先陣きって後輩の目指す道をつくっていきたいという想いでしたね。 赤木:テネシー大学を選んだ特別な理由は何かあったんですか? 早川:国際応用スポーツ心理学会が年に1度あるんですが、そこで留学の情報を集めていたところ、テネシー大学の運動学博士課程を見つけました。そのプログラムが東海大学のプログラムに似ていて、研究よりも現場の選手に直接アプローチする形でした。そこに魅力を感じてテネシー大学を選びました。 その後、英語学校に2年間通い、修士としてスポーツ心理学、運動学士を2年経験して、博士課程では教育心理学や色んな学習理論、指導理論を4年間学びました。その間、不定期でアスリートのメンタルサポートも行っていきました。 ▲ポートランドで開催された国際応用スポーツ心理学会にて自身の研究をポスター発表。 アメリカのスポーツ心理学 赤木:アスリートのメンタルサポートはどういった事をされていましたか? 早川:剣道のユース選抜チーム向けに練習会の様子を見てアドバイスをしたり、セミナーやワークショップを開催したりしていました。日本でも一時帰国のタイミングでセミナーに登壇したりもしていましたね。 スポーツ心理学に関する世界の関心 赤木:アメリカなどではスポーツ心理学がかなり盛んだと聞いていますが、やはりそういった点は体感されますか? 早川:そうですね。まずスポーツのスケール感が全く違っていますね。それは建物や施設、マーケットについても言えます。そしてスポーツに対する裾野の形が違っています。 赤木:裾野ですか? 早川:アメリカでは誰でも気軽にスポーツができる環境があるんですが、本格的にやりたいと思ったら学校ではなく地域のクラブチームに入ることになります。日本のように放課後に部活動があったり、学校単位でどこかに遠征するというものはないです。 赤木:学校以外の場所にもスポーツができる場所が沢山あるんですね。 早川:例えばテニスコートやゴルフ場は凄く安いですし、色んな所にジムがあったり、バスケコートも多くあります。メジャースポーツについてはどの競技も気軽にできますね。 赤木:日本だとメジャースポーツは特に競技する場所に困ったりしますが、そういった困り事が無いのは羨ましいですね。 早川:プロスポーツに対する投資もアメリカは大きいですね。特にトップにいけばいくほど投資金額は大きくなっていきます。それはスポーツサイエンスに対しても同じで、トップにいくほど科学的な分野への投資がなされますね。 赤木:やはりトップチームではメンタル面のサポートも手厚いですか? 早川:そうですね。どのチームも専属のメンタルコンサルタントがつくようになります。例えば野球ならマイナーリーグでも全球団にメンタルコーチがいますし、スポーツ心理について理解はありますね。とはいえそれもトップレベルに限られていて、草野球のレベルで言うと日本と大差はないと思います。 赤木:アメリカでもまだメジャーな分野という訳ではないんですね。 早川:アメリカは規模が大きい分、スポーツ心理学を学べる大学は多いですが、まだまだスポーツ界の中ではマイナーな分野ではありますね。やはりフィジカルや生理学アスレチックトレーニングなどがメインになっていて、スポーツ心理学は修士課程や博士課程として取り組む人が多いです。その人達が現場に入っていく形でスポーツ心理学の認知が広がっているのが現状です。 成長の楽しさを味わってもらいたい 早川:スポーツ心理学のテーマとして、成長する楽しさを味わうということがあります。例えば競技中のプレッシャーを無くしたり、競技力を最大にするといったことで、特に私が興味を持っているのは後者の方です。 赤木:競技者が自分の持っているパフォーマンスを最大に発揮する点ですね。 早川:スポーツにおける様々な場面を目にしていて感じる事なのですが、指導者と選手の関係に行き違いがあると思っています。効果的なスポーツサイエンスのナレッジがない為に成長できていないという場面をよく見かけてきました。それは選手に限らず、指導者ももっとスポーツサイエンスを取り入れると成長する事ができるのにと感じる事も多いです。 赤木:確かに、指導者も過去の経験の範囲からしか指導ができないというのはありそうですね。 早川:今後はそういった部分にもアプローチしていきたいと思っています。以前、中学校の地域バスケチームに関わっていたんですが、その子たちのメンタルサポートをすると周りの指導者が驚くらいに成長した姿を目にしました。その時の喜びが忘れられなくて、選手たちが劇的に成長したり周りをあっと言わせたりする瞬間をつくりたいと思うようになりました。 日本のスポーツ教育 赤木:日本ではどうしてもスポーツやメンタルというと、根性を鍛えるといったニュアンスが連想されてしまいますね。 早川:日本の場合は、まず選手と指導者の関係を見直す必要があると思います。元々、日本のスポーツは体育が起源と言われています。体を育む為のカリキュラムですね。それがスポーツという面も持つようになってきたのが今の状況だと思います。 赤木:体育とスポーツでは必要な指導の在り方も変わってきそうですね。 早川:そうですね。体育では指導者と選手はそのまま上下関係になっています。それは年上を敬う考え方からもきています。ですが、近年では社会が変わって、文化が変わってきました。その為うまくいかなくなってきたことも多く出てきています。例えばパワハラ、体罰問題もそうですね。 赤木:元々そういった事はあったけど、選手の意識が変わったから表に出るようになったというのはありそうですね。 早川:そういった点で、指導者の意識を変えていく事が必要だと思います。これは何もパワハラや体罰に限らない話で、指導者側が良かれと思ってやっている事でも、選手サイドの声が加味されてないため選手の納得を得られない事などもあります。 赤木:正解と納得解みたいな話ですね。 早川:その判断にあるリスクを理解した上で、選手にも責任を持たせることが大事だと思います。やらされていない分、選手達も納得しますし。それがもし間違っていても、間違いから学ぶ機会を得たと考える事もできます。全て指導者が環境整備してしまうと、そういった間違いから学ぶ機会が無くなってしまいますので。 赤木:常に正解を選び続けるというのは難しいですからね。社会に出てからは特に。 早川:まずは指導者と選手の関係作りです。指導者は選手の声を聞き、選手の責任を認めてあげる。選手は自分で判断する事を与えてもらった代わりに責任を取る。そうやって、お互いを尊重し合う関係性を作っていく事ですね。そういった部分で、スポーツ心理学が役に立ちます。指導者と選手のコミュニケーションだったり、練習環境・指導環境のアイディアなどはスポーツ心理学が担える部分でもあります。 赤木:指導者と選手が一緒につくっていくのが大事なんですね。 早川:そうですね。ともに学びあって良い練習環境をつくる事が大切で、スポーツ心理学や教育心理学はそういった場を作るのに役立ちます。 学生と指導者にとってより良い関係を 赤木:今後の目標やビジョンについてお聞きしていいですか? 早川:学校内外での選手やコーチのサポートは引き続きやっていきたいですが、今後は大学に勤めて、学生選手に関わっていきたいと思っています。例えば授業や研究室で学生を育てて、スポーツ心理学を広めていきたいです。 他にはセミナーや勉強会を開いたりして、スポーツ心理学や教育心理学を広めていきたいですね。スポーツ心理学、教育心理学の価値をレガシーとして残していきたいと思っています。 赤木:学問をレガシーにして残すというのは面白い発想ですね。 早川:目指すのはスポーツ心理学のようなサイエンスの領域と経験を合わせる事で新しい価値を生むことです。私は経験論を否定しているわけではなく、サイエンスとの組み合わせで価値が出るものだと思っています。 赤木:確かに、机上論だけで進めようとするのは難しそうですね。 早川:例えば指導者が職人のように経験を積むことも大事だと思っていますが、経験だけに頼って指導すると選手によって成長したりしなかったりしてしまいます。サイエンスはより多くの人に当てはまる法則ですので、そこを補完する事ができます。 とはいえ、それはあくまでセオリーであって、例外的な特徴を持つ選手も出てきます。そういった選手については経験で補完していく。両方の良い部分を融合していく事で、より良い選手育成ができるようになります。 赤木:なるほど、お互いの不完全な部分を補完する形ですね。 早川:近年はサイエンスが軽視される風潮にありますので、それを同等に価値あるものとして捉えて頂き、多くの人達に活用していってもらいたいと思います。   文:赤木 勇太
2020/03/29 145PV

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【ワタシの家トレ】vol.2 心身の状態をリセットする家トレ(パーソナルトレーナー 川上 陽子さん)

  ──今だからこそ、家で手軽に運動を──     大型イベントの中止や外出自粛のムードが広まり、社会不安が高まっています。 そこでSPOTAS+では、スポーツに関わる人達の家トレ(家でできるトレーニング)を紹介し、少しでも皆さんが健やかに日々を過ごしていけるようお手伝いします。 今回ご紹介する方はこちらーーー   川上 陽子 さん  パーソナルトレーナー。 2014年から2016年にかけ、TIP.X TOKYO SHIBUYAにてトレーニング指導やパーソナルセッションを実施。2016年から2018年まで、岩手県沿岸部(大槌町・釜石市・大船渡市・陸前高田市)にて仮設住宅や災害公営住宅、地域の公民館、フィットネスジムなど、全50ヶ所以上で運動指導を行う。 現在はイマレ生活リハビリサポートセンターにて介護認定を受けた方々に運動指導や講義、移動・排泄介助をおこなう。 並行して、パーソナルトレーニングセッションの実施や岩手県釜石市における運動イベントの主催にも力を注いでいる。日常生活で無意識・意識的に選択している姿勢のとり方や身体の使い方、ライフスタイルを掘り下げながら、目的に合わせた身体づくりを包括的に指導する。解剖学や運動力学、神経生理学、心理学、栄養学、中医学などを学び、筋肉のみに特化しない、多角的なアプローチを実施。パーソナルトレーニングのご依頼はこちらから     自律神経のバランスを整える   川上 今回はカラダと心のスイッチを切り替えしやすくする種目をご紹介したいと思います。自律神経って聞いた事ありますよね? 内臓の働きを24時間365日休まずにコントロールしてくれている神経ですよね。 川上 はい、私たちは、いわば『戦闘モード』である交感神経と『休養・消化モード』の副交感神経のバランスを、必要に応じて整えていくことが大事になります。仕事やストレスフルな環境においては、交感神経を積極的に働かせることで乗り越えやすくなります。ですが、その際にガチガチになってしまった心身が、就寝時など本来リラックスしていいときにも緩まないことがあります。そうすると、睡眠の質の低下やカラダの冷え、浅い呼吸などにつながりやすくなります。 交感神経が働き続けてしまうことで様々なデメリットが出てしまうんですね。 川上 今回ご紹介する家トレは、心身の状態をリセットしやすくして、ストレスの軽減や睡眠の質の改善、仕事の効率の向上などポジティブな連鎖が期待できるものです。 ぜひ教えて頂きたいです! 身体をほぐして呼吸を整える   川上 いくつかありますので順にご説明しますね。まずは股関節まわりをゆるめます。下の2枚の写真のように足裏を合わせながら足をパタパタと上下に動かします。これはご自身が心地良いと思うスピードや動きの大きさでおこなってください。 一定のリズムは自律神経を整えることに有効です。「幸せホルモン」とも呼ばれるセロトニンは、一定のリズムの動きの際に生成されやすいのです。 ▲足をパタパタと上下に動かして股関節をゆるめます。   一定のリズムでするのがポイントなんですね。 川上 次は下の写真のように、背中とお腹まわりをゆるめます。まず、足裏を合わせて手のひらを上に向けて足の下にくぐらせます。頭の重みに身を委ねながら首の力を抜き、口もぽかんと開けて全身を脱力させます。丸まった背中に新しい酸素を取り込み、背中が膨らんだししぼんだりするイメージで呼吸をしましょう。 ▲身体の力を抜いて丸くなる。   身体がほぐれていくのが分かりますね。 川上 次は下の写真のように、お腹まわりをゆるめていきます。手を重ねて、主に手の付け根をお腹に触れさせます。上に溜まっているものを下に流していくようなイメージで、強さはご自身が心地よい加減でおこないます。 ▲上に溜まっているものを下に流していくようなイメージで。   身体の中がキレイになってる感じがあります。 川上 ストレスや食生活などによる冷え、日常の姿勢などで、お腹は意外とかたくなっています。筋肉がかたいとその奥に入っている内臓もかたく、機能が落ちやすくなる。逆も然りで、外側からゆるめてあげることで、内臓にもアプローチすることができます。 内臓も整えることができるんですね! 川上 最後に呼吸に関係の深い部分です。下の写真のように、鎖骨近辺など胸まわりをゆるめます。胸まわりはストレスの影響を受けやすく、かたくなりやすい部分のひとつでもあります。鎖骨や肋骨の間は、筋肉で敷き詰められているので、骨と骨の間を指の腹でほぐしていくことが大事です。ご自身の手の温かみを伝えながらおこないましょう。胸まわりがほぐれることで、深い呼吸がおこないやすくなります ▲胸まわりがかたい状態では、深い呼吸をしようとしても胸まわりが広がりにくい。   なるほど、胸まわりの筋肉をほぐして呼吸がスムーズにできるようにする... 心地よさの追求が家トレ継続のコツ 家トレ継続のポイントについても教えて下さい。 川上 大事なのはご自身の声に耳を傾け、心地よさを追求していくことです。今までおこなっていないこと、ルーティンに含まれていないことを実践し、さらに継続することは簡単なことではありません。まずは実践し、それに対してご自身の心身がどのように変容しているのかを観察してみることです。 自分の心身の変化に意識を向けるんですね。 川上 意外と、普段ご自身のお身体に触れることは多くないと思います。例えば、お腹に触れてみて初めて冷えやかたさに気付いたりするものです。かたさや冷えが気になるところを重点的に温めることで、次第にお腹がゆるみ、深い呼吸につながっていきやすくなります。さらには今の状態に気付いたあと、「何でだろう…」と想いを巡らせてみて、「そういえば、最近暖かくなってきて冷たい飲み物を飲む機会が増えていたな」と思い返すかもしれません。 そういう変化を感じることができたら、冷たい飲み物を控えたり、お腹を温めるアイテムを使ったりするような具体的なアクションに繋がりそうですね。 川上 今ご自身のカラダや心がどのようなことを感じ、どのような状態に導いていきたいのか、そのために、何をしていくのか、一つひとつ丁寧におこなってみてください。カラダや心の心地よさを追求していれば、自然と結果的に「継続」が達成されているものです。 川上さんから読者の皆さんへ  お読みいただき、ありがとうございます!  このご時世の中で、ワークスタイルをはじめライフスタイルに変化が及んでいる方々も少なくないかもしれません。とくにこれまでと変わらない日々を過ごされている方々も、漠然とした閉塞感や不安感を抱いているかもしれません。  私も、今回の一件の影響を受けやすい立場の一人でもありますが、今の環境を最大限に活かしたいと思いながら日々過ごしています。例えば、在宅勤務の環境をより快適にするために、観葉植物を育ててみる。早起きしてカーテンと窓を開け、部屋をポジティブなエネルギーで満たしてしいく。仕事がキャンセルになった時間で読みたかった本を読んでみる。仕事の合間に散歩をして、春の訪れを感じる。これらは、今の状況に置かれたからこそ実現出来たことです。  そもそも、現代は、VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)の時代と言われて久しいですが、それをあらためて思い出させてくれている機会であるように感じています。私たち自身の心身も、取り巻く環境も、常に変化し続けています。それらの揺らぎを受容しながら、個人や周囲の心地よさを追求し続けていくという積極的な姿勢が今、求められているのかもしれません。 制限されることが増えることで、ご自身が本当に大切にしたいことが見えやすくなることもあります。  ぜひ、一緒に心地よさを追求しながら日々を過ごしていきましょう!