2019/09/13 16:10 537PV

野球留学を経て見つけた理想の『ベースボール』。イップスと向き合い続けるベースボーラーが語るスポーツの価値とは。【スポタス人インタビュー】

インタビュー

皆さんは『イップス』と言う症状をご存知でしょうか。

イップスとは、精神的な原因などによりスポーツの動作に支障をきたし、突然自分の思い通りの動きや意識が出来なくなる症状のことです。例えば野球のピッチャーであれば、イップスによってストライクが取れなくなったり、ゴルフであればパッティングが全くできなくなったり、症状の出方は様々です。

今回は、そんなイップスを抱えながらも理想のベースボールを追い求めるスポタス人にインタビューを行いました。

スポタス人とは

スポーツだけではなく、プラスアルファの形でスポーツと関わるキラキラした人物。

スポタスでは、『スポタス人』のインタビューを通じてスポーツとの様々な関わり方を発信しています。

スポタス人紹介

吉田浩幸

1995年 兵庫県生まれ 小学生から硬式野球を始め、中・高・大とプレーする。ポジションはピッチャーだったが、高校時代にイップスという困難にぶつかる。

野球との出会い

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赤木:野球を始めたのってどんなキッカケがありました?

吉田さん:野球を始めたのは小学校2年生の頃なんですが、母に連れられて地元の少年野球チームに入った事がキッカケでした。その頃は友達作りが苦手で、そのキッカケとして入団した形です。

赤木:自分からやり始めた訳じゃないけど、続ける事ができたんですね。

吉田さん:私は姉が2人いる末っ子で、遊ぶ相手は姉の友達だったんですね。それでかけっことかやるんですけど勝てなくて、頑張っても褒めてはもらえなくて。でも野球は結果だけじゃなくて頑張って練習してたらその頑張りを認めてもらえたんです。それが嬉しくて。

元々自信の無い子供だったからこそ、野球っていう自分を認めてくれる場に出会えた事でそこに没頭するようになりました。

赤木:原体験と言うか、子供の頃にそういう体験をしていると大きいですよね。

吉田さん:はい。人の価値観を決めるのは幼少期だと思っていて、今の私の価値観も根本にあるのはこの時期の体験ですね。

赤木:練習はどれくらいされていました?

吉田さん:練習は毎日していて、土日には試合をしている感じでしたね。小学校3年生の途中までは地元のチームでやっていたんですけど、そこからよりレベルの高いリトルリーグに入団しました。リトルリーグは中学校1年生まで入れるんですが、その時で関西大会6位に入れました。

赤木:その頃なら、体の成長もありますし、練習するだけ自分が上手くなる実感があったんじゃないですか。

吉田さん:そうですね。小学校時代は努力が結果に繋がりやすい時代だったと思います。やればやるほど上手くなるのが実感できましたね。これは野球だけじゃなくて、小学校1年生の頃は同学年の女の子にかけっこで負けたりしていたんですけど、野球を頑張っていたら小学校で一番速くなる事ができました。

赤木:ポジションはどこを守っていたんですか?

吉田さん:最初はセカンドやサードを守っていましたが、背が高かったのでリトルリーグに入ってからはピッチャーをやっていました。打順は4番を打っていました。

ヤングリーグでの想い出

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赤木:リトルリーグを卒業してからも野球を続けたんですね。

吉田さん:はい。リトルリーグを卒業した後ヤングリーグ(中学生の野球リーグの一つ)に入って、ここでもピッチャーをやっていました。

赤木:ヤングリーグのチームは強豪だったんですか?

吉田さん:強豪と言う訳ではなかったですね。少なくとも他の強豪チームより人数は少なかったですし。それでも団結力だけは負けて無かったと思います。誰かがミスをしても皆で取り返そうって意識が強くて、少ない人数だからこそ、お互いにフォローして勝に行くチームワークを感じる事ができました。結果、全国大会まで出場する事ができました。

赤木:なるほど。小学校の時は個人としての成長を楽しみに野球と関わり、中学ではチームとしての野球の楽しみを得る事ができたんですね。

高校時代、強豪高に進学してから

赤木:高校は強豪校を選んで入学されたんですか?

吉田さん:そうですね。ただ、勉強も両立したかったのでどちらもレベルが高い高校を探して、関西学院高等部を受験して入学しました。

赤木:文武両道だったんですね。でも中学の時と規模が全く変わってしまったんじゃないですか?

吉田さん:そうですね。リトルリーグでは同級生が8人くらいだったんですが、高校になると一気に68人になっていました。全校生徒900人中150人が野球部でしたので、雰囲気は全く変わりましたね。

順風満帆だった時期から一転してイップスに

吉田さん:最初は活躍できていたと思います。1年生で3年生の試合にもピッチャーで出してもらったりしていましたし、普通はその時期って声出しとか走り込みとかやってる時期でしたから。

赤木:順風満帆だったんですね。

吉田さん:でも1年生の夏が終わって、新チームができて状況が変わりました。周囲のプレッシャーや、監督の方針があったのかもしれませんが、投げても投げてもボールワンバウンドしたり、バッターの頭を越えたりなど自分が意図しない方向に投げてしまうようになったんです。

赤木:そこでイップスになったんですね。。監督の方針って、厳しい感じだったんですか?

吉田さん:例えばフォアボールを出したら即交代と言うような方針でしたね。このイップスがどうしても克服できなくて、ブルペンでの投球練習や、マウンドでの最初の練習はちゃんと投げられるんです。でも、バッターが立った瞬間にワンバウンドしてしまう。自分でも何でそうなるのか全く分かりませんでした。

赤木:ピッチャーというポジションでそれはきついですね。。

吉田さん:しまいにはキャッチボールもできなくなってしまって、野球塾などにも行って一時的に良くなったりはしたんですが、根本解決はできずにすぐ再発したり。あの頃はいつ辞めようかと考えたりしていました。

赤木:人数の多い部活で、しかもピッチャーって言う花形のポジションですからね。精神的なダメージは相当大きかったんじゃないですか?

吉田さん:そうですね。これが怪我だったら分かりやすいんですが、目に見えないから難しくて、周りも『思い切り投げろよ』って言うだけだったりするんですよね。3年生になってもイップスが克服できなかったので、野手に転向した時期もありましたが、さすがに野手としてはレギュラーに入れる感じでも無かったですし。

赤木:悩ましいところですね。。

吉田さん:『なんで自分だけ…』って思いましたね。正直その頃はあまり良い思い出は残ってなくて、唯一学んだ事は『努力はそう簡単には報われない』という事でした。

赤木:でも、そこまで経験したら普通は『努力は報われない』となりそうなところなのに、踏みとどまっていられたのは凄いですね。

吉田さん:細かい点では努力が報われたと思えた事は有ったので、諦めはしなかったですね。やっていればいつかは何とかなると思い続けていました。

イップスを抱えながらも大学野球部へ

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赤木:それでも大学で野球部に入ったんですか?

吉田さん:はい。内部進学で大学に入って、野球部に入部しました。イップスについても何とかしようとして、関東にイップス研究の有名な人がいると聞いたのでバイト代を貯めてその人の所に教えを受けに行ったりしました。

赤木:部活動引退直後にバイトして、そのお金で勉強のために関東に行くって凄いですね。

吉田さん:その方に言われたのが、『今の自分を認めてあげる事が重要』ということで、初めて自分のメンタルと向き合いました。今まで『自分はもっとできるはず』という想いが強くて、それが逆に自分を縛っていたんです。『今の状況を受け止めて、その上でもっと自由に表現できるようにしよう』と考えるようになりました。その他にも、催眠療法などやれる事は全てやりました。

赤木:凄く徹底していますね。

吉田さん:とにかくやった事が成果になって欲しかったんです。その拘りだけは残り続けました。でも、今思うとそれもイップスに繋がり続けていたんじゃないかと思います。

赤木:それだけの事をやっても、イップスは克服できなかったんですね。

吉田さん:大学の野球部は高校よりも更に周りのプレッシャーが強くて、それがイップスを更に強くさせていたんだと思います。スポーツに限った話じゃないと思いますが、人の人生って周りの環境で大きく変わると思います。

野球は好きだし野球チームも好きなんだけど、『野球部』と言う組織に対してモヤモヤしたものを持っていました。

退部して出会った『アメリカンベースボール』

吉田さん:その後、大学2年生になって野球部を辞めました。大学1年生の時は雑用が多いんですが、2年生になるとそれも1年生に引き継ぎます。そうなると、そこから実績を出して更に上を目指すか、部のサポートをするかの道に分かれるようになります。

そんな中で、これ以上自分にできる事は無いと感じて、野球部を辞める事にしました。就活とかを考えたら卒業まで居続けた方が良いのは分かっていたんですけど、そんな理由で残り続けるのは嫌でしたし。

赤木:部のサポートと言っても雑用は1年生がやるわけですしね。

吉田さん:そんな時、友達がクラブチームの立ち上げをやっていて、そこに誘ってもらいました。アメリカンベースボールというスタイルのクラブチームで副キャプテンでポジションはショートでした。

赤木:アメリカンベースボールですか?

吉田さん:簡単に言うと、勝つ事に対して本気で取り組みながら楽しむスタイルです。

部活動は初めに組織ありきで、そこからどう野球をやるか、どう勝つかを目指すイメージですが、アメリカンベースボールは野球をあくまでスポーツとして捉え、勝ちに向かって合理的で効率的な練習をするイメージです。

赤木:高校~大学の野球部とはかなり違っていますね。

吉田さん:他のチームメイトも野球が好きだけど野球部が嫌になったようなポテンシャルの高いメンバーで、他のクラブチームと試合しても勝てるようなチームになっていました。そこで本当のスポーツの形を感じて、本場アメリカに興味を持ちまして、4年生での野球留学に繋がります。

野球留学

赤木:野球留学は4年生の時にされたんですね。

吉田さん:はい。知人に野球留学のエージェントがいて、アメリカのクラブチームへの入団手配してくれました。期間は3週間程でしたが、とても学びの多い時間でした。

赤木:本場のアメリカンベースボールで印象に残ってる事とかありますか?

吉田さん:まずは色んな国の選手がいて、それぞれ個性が全然違っていた事ですね。例えばドミニカ人はバッティングの待ち時間で音楽流しながら踊ってるんですけど、いざ練習になると凄く熱心にやるんです。バッティングも、最初は全くの空振りしているところからすぐに調整して大きなホームランを打つなど、やっぱり海外のスケール感は凄かったですね。

赤木:カルチャーギャップは多そうですね。

吉田さん:日本人から見ると向こうの選手って地道な練習をしないイメージって無いですか?でも実は彼らは凄く地道な練習をしてるんですよ。ただそれが根性を付ける為とかではなく、競技に必要なフォームやリズムを体に覚えさせる合理的な練習です。例えばノック練習なら一定のリズムでボールを取らせたりですね。

バッティングもただスピードの速いバッティングマシーンを使うんじゃなく、フォームを固める為に正面からトスを上げてボールを打たせるんです。

赤木:確かに、アメリカって言うと合理主義的なイメージが強いですが、練習に対しても理論がしっかりしているんですね。

吉田さん:例えば日本代表とアメリカ代表が野球で試合すると、ジュニア時代までは日本人って強いんですよね。でも大人になってからそれが逆転する。筋力に差が出ると考える人も多いですが、野球は技術のスポーツなので、本来は日本人にもアドバンテージはあるはずなんです。実際、私も3週間しかいませんでしたが、日本にいる時より上手くなっている実感がありました。

インタビュー

インタビュー

▲留学先でのシーン

これからの展望

吉田さん:私は野球が好きですしスポーツも好きです。野球をする事によって『努力』『スポーツマンシップ』『チームワーク』といったものを学ぶ事ができました。

赤木:今までの経験から得たものですね。

吉田さん:でも、スポーツで学んだ事が『組織の理不尽をどうやりくりするか』だったりするケースもあって、そうはあって欲しくないと思っています。そして何より、スポーツは楽しんでやるものだと思っています。

これからは一人一人が自分で生き方を決める時代だとよく言われます。その為の教育としてスポーツが機能するはずだと思っています。

赤木:確かに、身体性を伴った学びはスポーツならではですね。

吉田さん:はい。私はスポーツを通じた教育を事業化して、スポーツを楽しみながら一人の人間としての生き方を学べる人達を増やしていきたいと思っています。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

小学校から好きだった野球が高校から変わっていったエピソード、イップスに苦しみ抜いた日々、アメリカンベースボールの出会いとこれからのスポーツ教育。

吉田さんさんのインタビューはとても胸に刺さるものがありました。

スポタスでは『スポーツ+何か』を持ったスポタス人をこれからもご紹介していきます。

この記事の記者紹介
スポタス編集部

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早川:いえ、私が入学した当時はスポーツ心理学専攻ではなく、理学部の情報物理学科でした。 赤木:むしろ心理とは離れた印象ですね。 早川:きっかけは、当時のスポーツ心理学の実践している先生で第一人者の人がいて、その方の主催するメンタルトレーニング勉強会にいったことです。目から鱗が落ちるような内容で、そこからもっとスポーツ心理学について勉強したいと考えるようになりました。 赤木:大学にいるとたまにびっくりするような面白い授業に出会える時ってありますよね。 早川:その先生がメンタルトレーニングのスタッフ募集していて、学部は違うけどやりたいと思って先生の研究室に入り浸り、勉強会に参加して4年間を過ごしました。 赤木:熱量が凄いですね。 早川:学部生が終わって修士になった時、その先生の研究室に入る為に体育学科に入ります。そしてそこで2年間本格的にスポーツ心理学の勉強を始めました。 アメリカ留学 赤木:今はアメリカの大学にいらっしゃいますが、元々アメリカの大学に行こうと考えていたんですか? 早川:英語には元々興味がありました。中学の時にも英会話教室に3年間通っていましたし、漠然と、英語をもっと使いたいとは思っていました。留学の大きな理由としては、大学院1年生の時に進路を考えてて、当時通ってた大学に博士課程がなかったので外に出る必要がありました。それで先生や研究室の先輩に進路相談した時、留学を勧められたのがきっかけです。 赤木:それでアメリカ留学だったんですね。かなり勇気が必要だったんじゃないですか? 早川:学生でスポーツ心理学を学びに留学してた人はいなかったので、腹くくっていきましたね。それでまずはフロリダに行って、その後今いるテネシーに行きました。 スポーツ心理学がマーケットとして成熟していない状況ですので、自分が先陣きって後輩の目指す道をつくっていきたいという想いでしたね。 赤木:テネシー大学を選んだ特別な理由は何かあったんですか? 早川:国際応用スポーツ心理学会が年に1度あるんですが、そこで留学の情報を集めていたところ、テネシー大学の運動学博士課程を見つけました。そのプログラムが東海大学のプログラムに似ていて、研究よりも現場の選手に直接アプローチする形でした。そこに魅力を感じてテネシー大学を選びました。 その後、英語学校に2年間通い、修士としてスポーツ心理学、運動学士を2年経験して、博士課程では教育心理学や色んな学習理論、指導理論を4年間学びました。その間、不定期でアスリートのメンタルサポートも行っていきました。 ▲ポートランドで開催された国際応用スポーツ心理学会にて自身の研究をポスター発表。 アメリカのスポーツ心理学 赤木:アスリートのメンタルサポートはどういった事をされていましたか? 早川:剣道のユース選抜チーム向けに練習会の様子を見てアドバイスをしたり、セミナーやワークショップを開催したりしていました。日本でも一時帰国のタイミングでセミナーに登壇したりもしていましたね。 スポーツ心理学に関する世界の関心 赤木:アメリカなどではスポーツ心理学がかなり盛んだと聞いていますが、やはりそういった点は体感されますか? 早川:そうですね。まずスポーツのスケール感が全く違っていますね。それは建物や施設、マーケットについても言えます。そしてスポーツに対する裾野の形が違っています。 赤木:裾野ですか? 早川:アメリカでは誰でも気軽にスポーツができる環境があるんですが、本格的にやりたいと思ったら学校ではなく地域のクラブチームに入ることになります。日本のように放課後に部活動があったり、学校単位でどこかに遠征するというものはないです。 赤木:学校以外の場所にもスポーツができる場所が沢山あるんですね。 早川:例えばテニスコートやゴルフ場は凄く安いですし、色んな所にジムがあったり、バスケコートも多くあります。メジャースポーツについてはどの競技も気軽にできますね。 赤木:日本だとメジャースポーツは特に競技する場所に困ったりしますが、そういった困り事が無いのは羨ましいですね。 早川:プロスポーツに対する投資もアメリカは大きいですね。特にトップにいけばいくほど投資金額は大きくなっていきます。それはスポーツサイエンスに対しても同じで、トップにいくほど科学的な分野への投資がなされますね。 赤木:やはりトップチームではメンタル面のサポートも手厚いですか? 早川:そうですね。どのチームも専属のメンタルコンサルタントがつくようになります。例えば野球ならマイナーリーグでも全球団にメンタルコーチがいますし、スポーツ心理について理解はありますね。とはいえそれもトップレベルに限られていて、草野球のレベルで言うと日本と大差はないと思います。 赤木:アメリカでもまだメジャーな分野という訳ではないんですね。 早川:アメリカは規模が大きい分、スポーツ心理学を学べる大学は多いですが、まだまだスポーツ界の中ではマイナーな分野ではありますね。やはりフィジカルや生理学アスレチックトレーニングなどがメインになっていて、スポーツ心理学は修士課程や博士課程として取り組む人が多いです。その人達が現場に入っていく形でスポーツ心理学の認知が広がっているのが現状です。 成長の楽しさを味わってもらいたい 早川:スポーツ心理学のテーマとして、成長する楽しさを味わうということがあります。例えば競技中のプレッシャーを無くしたり、競技力を最大にするといったことで、特に私が興味を持っているのは後者の方です。 赤木:競技者が自分の持っているパフォーマンスを最大に発揮する点ですね。 早川:スポーツにおける様々な場面を目にしていて感じる事なのですが、指導者と選手の関係に行き違いがあると思っています。効果的なスポーツサイエンスのナレッジがない為に成長できていないという場面をよく見かけてきました。それは選手に限らず、指導者ももっとスポーツサイエンスを取り入れると成長する事ができるのにと感じる事も多いです。 赤木:確かに、指導者も過去の経験の範囲からしか指導ができないというのはありそうですね。 早川:今後はそういった部分にもアプローチしていきたいと思っています。以前、中学校の地域バスケチームに関わっていたんですが、その子たちのメンタルサポートをすると周りの指導者が驚くらいに成長した姿を目にしました。その時の喜びが忘れられなくて、選手たちが劇的に成長したり周りをあっと言わせたりする瞬間をつくりたいと思うようになりました。 日本のスポーツ教育 赤木:日本ではどうしてもスポーツやメンタルというと、根性を鍛えるといったニュアンスが連想されてしまいますね。 早川:日本の場合は、まず選手と指導者の関係を見直す必要があると思います。元々、日本のスポーツは体育が起源と言われています。体を育む為のカリキュラムですね。それがスポーツという面も持つようになってきたのが今の状況だと思います。 赤木:体育とスポーツでは必要な指導の在り方も変わってきそうですね。 早川:そうですね。体育では指導者と選手はそのまま上下関係になっています。それは年上を敬う考え方からもきています。ですが、近年では社会が変わって、文化が変わってきました。その為うまくいかなくなってきたことも多く出てきています。例えばパワハラ、体罰問題もそうですね。 赤木:元々そういった事はあったけど、選手の意識が変わったから表に出るようになったというのはありそうですね。 早川:そういった点で、指導者の意識を変えていく事が必要だと思います。これは何もパワハラや体罰に限らない話で、指導者側が良かれと思ってやっている事でも、選手サイドの声が加味されてないため選手の納得を得られない事などもあります。 赤木:正解と納得解みたいな話ですね。 早川:その判断にあるリスクを理解した上で、選手にも責任を持たせることが大事だと思います。やらされていない分、選手達も納得しますし。それがもし間違っていても、間違いから学ぶ機会を得たと考える事もできます。全て指導者が環境整備してしまうと、そういった間違いから学ぶ機会が無くなってしまいますので。 赤木:常に正解を選び続けるというのは難しいですからね。社会に出てからは特に。 早川:まずは指導者と選手の関係作りです。指導者は選手の声を聞き、選手の責任を認めてあげる。選手は自分で判断する事を与えてもらった代わりに責任を取る。そうやって、お互いを尊重し合う関係性を作っていく事ですね。そういった部分で、スポーツ心理学が役に立ちます。指導者と選手のコミュニケーションだったり、練習環境・指導環境のアイディアなどはスポーツ心理学が担える部分でもあります。 赤木:指導者と選手が一緒につくっていくのが大事なんですね。 早川:そうですね。ともに学びあって良い練習環境をつくる事が大切で、スポーツ心理学や教育心理学はそういった場を作るのに役立ちます。 学生と指導者にとってより良い関係を 赤木:今後の目標やビジョンについてお聞きしていいですか? 早川:学校内外での選手やコーチのサポートは引き続きやっていきたいですが、今後は大学に勤めて、学生選手に関わっていきたいと思っています。例えば授業や研究室で学生を育てて、スポーツ心理学を広めていきたいです。 他にはセミナーや勉強会を開いたりして、スポーツ心理学や教育心理学を広めていきたいですね。スポーツ心理学、教育心理学の価値をレガシーとして残していきたいと思っています。 赤木:学問をレガシーにして残すというのは面白い発想ですね。 早川:目指すのはスポーツ心理学のようなサイエンスの領域と経験を合わせる事で新しい価値を生むことです。私は経験論を否定しているわけではなく、サイエンスとの組み合わせで価値が出るものだと思っています。 赤木:確かに、机上論だけで進めようとするのは難しそうですね。 早川:例えば指導者が職人のように経験を積むことも大事だと思っていますが、経験だけに頼って指導すると選手によって成長したりしなかったりしてしまいます。サイエンスはより多くの人に当てはまる法則ですので、そこを補完する事ができます。 とはいえ、それはあくまでセオリーであって、例外的な特徴を持つ選手も出てきます。そういった選手については経験で補完していく。両方の良い部分を融合していく事で、より良い選手育成ができるようになります。 赤木:なるほど、お互いの不完全な部分を補完する形ですね。 早川:近年はサイエンスが軽視される風潮にありますので、それを同等に価値あるものとして捉えて頂き、多くの人達に活用していってもらいたいと思います。   文:赤木 勇太
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